第四章  初めての夫婦喧嘩

アメリカ占領軍の最大の戦略であった、大蔵省を頂点にした能天気官僚支配の国にする為の戦後教育の成果が、ボディーブローのようにじわじわと利き始めて来た処へ、最後の止めを刺したのが、バブル発生であった。
バブル発生を、金融機関と不動産業界及び大手建設業界を、その責任の旗頭とするのは表舞台の演出であっただけで、裏舞台では、大蔵省頂点の官僚支配国家の総仕上げであったことを、この国の国民はまったく認識していない。
バブル破裂後、不良債権で苦しむ銀行に、大蔵高級官僚が大量に天下りをして頭取ポストを奪っていった。また下級官僚も、全国に網の目のように張り巡らした地方税務所の所長ポストを引退した後、会計士や税理士となって、所長時代に恩を売っておいた各企業の顧問となって、大企業のサラリーマン社長など到底及ばない程の収入を得、しかもほとんど税金を払わないという暴挙を平然と今でもやってのけている。
大蔵省の元役人が脱税の主役でありながら、一般事業者が節税と脱税の狭間で生じた良心の呵責で、税務調査人の亡霊に日々怯えながら、苦しい経営をしているのが、中小・零細企業の実態である。
こんな不条理が堂々と罷り通る国は、世界でも独裁国家を除いては、極めて珍しいが、この国の国民がこの事実をほとんど知らないのは、マスコミの責任である。
有名人のスキャンダル記事ばかりにやっきになっているマスコミも、いい加減に言論の自由を盾にするなら、本当の不条理を追求する責任を全うしなければならないだろう。
その相手が、かつての大蔵省、今の財務省であり、国民が一致団結して対抗手段を考えなければ、この国の腐敗構造を払拭することは不可能であろう。
道路公団を中心の天下り役人の横暴に、遂に国民も自ら立ち上がり、高速道路料金の不払い運動が始まった。
車のフロントガラスに、「わたしは高速料金を払いません」と書いた大きなシールを貼って、料金所を素通りするのだ。
道路公団の連中も対抗して、一部の不払い者を槍玉にあげて訴訟を起しているが、ここが一番の正念場であろう。
人間、誰しも傷つきたくない。だからと言って不条理を見て見ぬ振りをしていては、結局の処、天に唾することになって自らの下に落ちて来ることを認識して、槍玉に挙げられた仲間を応援することを決して忘れてはならない。
この運動を、極大化する最後の切り札が、「納税拒否運動」である。
明治政府が突貫工事でつくった近代国家の弊害が過去、五十年毎に火を噴いてきたが、敗戦後初めての噴火が、今日であろう。
今日の、この国の頽廃ぶりは、いろいろな面で顕れ始めている。
その一つが家庭崩壊の危機である。
家庭の核である夫婦関係に異変が起きているのだ。
欧米社会の猿真似をして、女性の社会進出が活発になって来たのも、戦後教育による、日本人男性の男としての責任逃避が、その原因だ。
それが共稼ぎ夫婦の増加という形で表面化している。
共稼ぎしている夫婦は、結婚してもすぐに自己主張をするから喧嘩になる。
昔の新婚家庭というのは、ほとんどが専業主婦だったから、三つ指さして主人を迎えるまではいかなくても、夫に逆らうことなど考えられなかった。
逆らったら、即離婚問題まで大きくなるのが常だったから、嫁もそのことを充分承知して嫁いできた。
結婚式の日に、嫁ぐ娘が父親に今まで育ててくれた恩に対して改めて礼の気持ちをこめて挨拶するのが、バブルで日本中が湧きあがった1980年代半ばまでは、一種の儀式になっていた。
ところが、バブルで総国民守銭奴になり果てた結果、拝金主義に冒された、この国の国民は、家庭における倫理観すら失ってしまった。
嫁ぐ日に、一家の大黒柱である父親に、改めて親の恩に感謝の礼をするのが、この国の美徳であった。
この儀式は、父親に取って替わって、新しい家庭の大黒柱になる夫に対する礼儀の意味も込めていることを、忘れてはならない。
男尊女卑などといったレベルの低い話では決してなく、人間としてのあるべき美しさの
表現が、父親から夫に対する尊敬の念を込めての服従宣言の儀式であるのだ。
女の幸せが、この美徳にあることを、今の日本人女性はみんな知らないで、自己主張だけをする。
かつての共産主義国家の離婚率の多さは異常で、それが家庭崩壊を生み、結果、国家の崩壊にまで発展したのが真の原因である。
今、世界No1の共産主義官僚独裁国家、日本も同じ兆候を示し始めた。
この兆候によって、どんな結果が待ち受けているかを知らしめられる日は、さほど遠い日ではないだろう。
美沙子の育った家庭も、現代日本の典型であったが、美沙子の生来の性格が幸いして、共稼ぎ夫婦でありながら、この五年間夫婦喧嘩は一度もなかった。
その封印が、今開かれようとしている。